不妊治療の保険適用について調べてみました(後半)
前半では、不妊治療への保険適用の背景や、対象となる治療法、年齢制限などについて触れてみました。後半では、保険適用におけるメリットやデメリットについて考えてみました。(前半はこちら)
[toc]保険適用のメリット
保険適用前の費用の目安としては、人工授精で1〜3万円、体外受精では20万円〜60万円また採卵や胚の凍結などを考えると+20〜30万円はかかっていたと言われています。
経済的負担が軽くなる
最大のメリットは、「経済的負担が軽くなる」ことです。
保険適用ってことは、患者の負担額は30%ですので、今までかかっていた費用の1/3以下になるということです。(高齢者や6歳未満は異なりますが、不妊治療の対象年齢のかたは、原則30%です)
助成金がもらえていた時も、一度は自費で全額で支払ってから、申請することでお金が戻ってくる仕組みであるため、一時的にも貯金がないと不妊治療をスタートが難しかったものです。
明瞭会計
今まで、病院・クリニックによって治療費は異なっていました。年齢制限はあるにしろ成功報酬で治療を提供しているところもあれば、さまざまな最先端治療を提供したり、より手厚い治療を行うことで金額が高額になるところもありました。
それが、国によって決めた点数(=金額)になるため、どの病院・クリニックでも同額で提供されることになります。
まだ、多くの病院・クリニックが金額が発表されていなさそうだったのですが、杉山クリニックで参考資料が提示されていました。
ライフプランの選択肢を多く持てる
経済的な理由で治療に踏み切れなかった人が受けられるようになります
治療のハードルが下がる
これも、経済的負担が軽くなることで、若い人も治療が受けやすくなります。
ちなみに日本の高度生殖医療の技術レベルは、諸外国に比べても高いのですが、実は日本の体外受精の成功率は意外と低いのです。その原因が高齢になってからの不妊治療が原因と言われています。そのため、金銭的な理由で不妊治療に踏み切れず、金銭的に余裕ができるまで治療開始が遅れてしまう原因が解消されるということです。
保険適用のデメリット
医療の標準化の問題点
今までは、不妊の原因は人それぞれであるため、病院・クリニックも結果をしっかり出すために、個々に合わせたきめ細かい治療が可能でしたが、今後は、国で標準化された治療をすることになります。そのため、使用できる薬剤の種類・量・回数・必要な検査の回数が制限されるのではないかといった可能性があります。
結果的に、 結果的に妊娠率の低下に繋がってしまうのでは?と、懸念されています。
自費診療を希望した場合、助成金がないため全額自費
日本の医療システムによると、保険診療と保険診療外の治療は同日にはできません。 そのため、保険診療外の治療を希望する場合、保険診療の部分も自費診療となります。
保険適用が開始されると、今まで給付された助成金も終了になってしまうので、全額自費負担となります。
年齢が対象年齢を超えてしまっている場合も、今まで通り自己負担となります。
不妊治療クリニックの経営難の可能性
今までの治療費よりも、国が定めた保険点数(=治療費)は低い傾向にあります。質の高い生殖補助医療が行えなくなるに加え、不妊治療クリニックの経営難から、病院が少なくなってしまう可能性も考えられます
その他の心配
NPO法人Fineが実際に不妊治療を受けた方へ実施した「不妊治療環境向上アンケート」によると、保険適用による心配にこんな声があるそうです。
- 授からなければ治療をすればいいという考えが当たり前になってしまうのでは心配になる
- 技術力(質)の低下
- 「治療」=「妊娠できる」と思われることが怖い
確かに、今までの傾向でも体外受精を何度か実施しても妊娠できない場合ももちろんあるため、「治療」=「妊娠できる」といった認識が広まったり、子供を希望しないカップルが「なぜ治療しないの?」といった目で見られてしまう可能性もあるのかもしれません。
そのためにも、「正しい不妊治療の啓発」というのが大切ですね。
保険適用以外のお金について
医療費控除
年間10万円以上医療費を払っている場合、税金控除の対象になります。
以前にもブログに書きましたが、鍼灸治療も医療費控除の対象になりますので、領収証はちゃんととって置いてくださいねー。
高額療養費制度
高額療養費制度というものをご存じですか?
医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月(歴月:1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する「高額療養費制度」です。
高額療法費制度についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
上限額は、年齢や所得に応じて定められていて、いくつかの条件を満たすと負担をさらに軽減できたりする仕組みも設けられているようです。
不妊治療も高額な医療になってきますので、良い制度はうまく活用していきたいですよね。
最後に
不妊治療を進めるにあたり今までハードルとなってきたものは、「経済的問題」と「社会的問題(仕事との両立)」があると言われています。
今回の保険適用で「経済的問題」が改善されることが期待できますが、まだ「社会的問題」も残っています。
そのため、厚生労働省では、不妊治療について職場における理解を深め、不妊治療のための休暇制度などを利用しやすい環境整備や、不妊治療を行う労働者の相談に対応し、休暇制度等を利用させた事業主を支援することにより、不妊治療による離職防止を図る「両立支援補助金」など進めているそうです。
まだまださまざまな問題があるとは思いますが、少しづつでも不妊治療が受けやすく、そして子育てしやすい社会環境ができてくると嬉しいですね。